Townsend and Townsend and Crew/タウンゼント知財総合事務所が不定期にお届けするニュースレターです。2/22付けの記事に日本語訳を追加して際アップしています。
英語
http://www.townsend.com/resource/update.asp?o=8144
日本語(仮訳)
CAFCが「侵害の積極的誘引(active inducement」に必要とされる立証基準を明確化
2006年12月13日、CAFC大法廷(en banc)は、DSU Medical Corp. v. JMS Co., Lmtd.事件に判決を下しました(判決原文:http://www.fedcir.gov/opinions/04-1620.pdf)。この判決では、米国特許法271(b)に規定された「侵害の積極的誘引(”active inducement”)」を判断するうえでの「故意(mens rea)」についての判断基準が示されています。本判決においてCAFCは、”active inducement”に該当するには「単に直接侵害を構成する行為を引き起こす意図以上のものが要求され、単に直接侵害をしている者の行為を知っているだけでは不十分であり、他人の直接侵害を奨励(encourage)するような責められるべき行為(culpable conduct)が立証されることが必要である(“more than just intent to cause the acts that produce direct infringement. … [I]nducement requires evidence of culpable conduct, directed to encouraging another’s infringement, not merely that the inducer had knowledge of the direct infringer’s activities”)」と判示しました。
米国特許法271(b)には、「積極的に特許の侵害を引き起こした者は、侵害者として責任を負う(“any party who actively induces infringement of a patent shall be liable as an infringer”)」と規定されています。本判決以前、CAFCは「積極的に…引き起こす(”active induces”)」を構成する行為について二つの異なる判断基準を示していました。Hewlett Packard Co. v. Bausch & Lomb, Inc. (909 F.2d 1464 (Fec. Cir. 1990))事件では、当該行為が特許侵害に該当すると主観的に信じているか否かにかかわらず、単に直接侵害を構成する行為を引き起こすだけで十分である、と判示していました。一方、Manville Sales事件では、原告は特許侵害を引き起こす(induce)行為が行われたことだけでなく、その行為が実際に特許侵害を引き起こすとを知っていたことを立証する必要があると判示していました。(Manville Sales Corp. v. Paramount Systems, Inc., 917 F.2d 544, 554 (Fed. Cir. 1990))
本裁判では、Manville Sales事件の基準を採用して行われた地裁での陪審員説示(“jury instruction”)の適切性が争われました。
CAFC大法廷(en banc)は、地裁での陪審員説示(“jury instruction”)を支持し、Hewlett Packard事件で示された具体性の低い判断基準を否定しています。さらに、同大法廷は、被告が弁護士から非侵害の鑑定を得ていたことを指摘し、陪審員が下した非侵害の評決は根拠があるものと判断しました。具体的には、CAFCは「ITLはその製品(Platypus)が非侵害であると信じていた証拠がある。従って、侵害の意図はなく、法が要求する特定の意図(“specific intent”)を欠くとの陪審員評決は正当である(“[T]he record contains evidence that ITL did not believe its Platypus infringed. Therefore, it had no intent to infringe. Accordingly, the record supports the jury’s verdict based on the evidence showing a lack of the necessary specific intent”)」と判断しています。
本判決は特許権者、侵害訴訟の被告、潜在的な被告のそれぞれに重要な意味を持つものです。特許権者にとっては「侵害の積極的誘引(”active inducement”)」を立証する負荷が実質的に増加することになります。特許権者が潜在的な侵害者に特許の存在を認識させるため特許を通知するような場合、特許権者は、将来的に被告が特許侵害を知っていたことの証拠として使えるようそのような通知の記録を保管しておくべきでしょう。
一方、潜在的な侵害者は、弁護士から合理的な非抵触の鑑定を入手することによって「侵害の積極的誘引(”inducement infringement”)」による訴追から逃れることができるでしょう。本判決では明示されていませんが、本判決の論旨に従えば、仮に直接侵害の成立に疑いがないとしても、特許の無効を合理的に信じていた場合であれば「侵害の積極的誘引(”inducement infringement”)」による訴追から免れることができることが強く示唆されています。
また、本判決では触れられていませんが、合理的な非抵触又は特許無効の鑑定を有している被告は、地裁又は高裁が積極的に特許の非侵害又は無効を認定する前の行為についても、271(b)に基づくいかなる損害からも免除されることが示唆されています。
タウンゼント知財総合事務所/穐場 仁