Hakim v. Cannon Avent Group, PLC, et al.

CAFCは、2月23日に、Hakim v. Cannon Avent Group, PLC, et al.事件に判決を下した(CAFC 2005-1398, http://fedcir.gov/opinions/05-1398.pdf)。

本事件では、親出願のクレームを継続出願で拡張する場合について興味深い説示が行われている。

本事件で争われたUSP6,321,931は”leak-resistant drinking cup”に関するものであり、クレーム中の”opening”のクレーム解釈が争点の一つになっている。’931特許は親出願(後に放棄)からの継続出願であり、親出願の審査経過では”slit”という文言を使用し特許性を主張していた模様である。継続出願では”slit”を”opening”と拡張して登録となっている。

CAFCは、地裁での判断(“opening”を実施例の”slit”に限定的に解釈)を肯定し、

「出願人は継続出願を行いクレームを拡張することができる」が、
(“Hakim had the right to refile the application and attempt to broaden the claims.”)

「放棄された権利範囲をrecaptureすることは許されない」
(“However, an applicant cannot recapture claim scope that was surrendered or disclaimed.”)

「審査過程で行われた権利範囲の放棄は取り消し可能であるが、そのためには、従前の権利範囲の放棄及びそれによって回避されteた公知例を再度検討する必要がある旨を審査官に知らしめたことが(審査経過から十分に明らかである)必要がある」
(“Although a disclaimer made during prosecution can be rescinded, permitting recapture of the disclaimed scope, the prosecution history must be sufficiently clear to inform the examiner that the previous disclaimer, and the prior art that it was made to avoid, may need to be re-visited.”)

と判事している(日本語は筆者による意訳)。

本特許の審査経過では、継続出願を行う際、「継続出願のクレームは親出願のクレームより広い」旨を審査官に伝えていたようである。しかしながら、かかる連絡だけではrecaptureを正当化できないとのCAFC判断と思われる。

本判決の評価、継続出願の実務に与える影響を注視したい。

タウンゼント知財総合事務所/穐場 仁

【関連】米最高裁、Microsoft v. AT&T事件のヒアリングを実施

2月22日、米国連邦裁判所(サンディエゴ)の陪審員は、MicrosoftがWindowsにMP3関連の特許を侵害したとして、同社に対し15億ドル(約1800億円)の損害賠償の支払いを命じる旨評決した。本件は高額な損害賠償で注目されているが、前述したMicrosoft v. AT&T事件と同様の争点も含んでいる。一説によると、15億ドルの損害賠償の対象となる売り上げのうち約50%は米国外での売り上げといわれており、CAFCでの判断次第では損害賠償額に大きな影響が出る可能性がある。

タウンゼント知財総合事務所/穐場 仁

CAFC Clarifies Standard for Proving Intent Required to Show Inducement of Patent Infringement

Townsend and Townsend and Crew/タウンゼント知財総合事務所が不定期にお届けするニュースレターです。2/22付けの記事に日本語訳を追加して際アップしています。

英語
http://www.townsend.com/resource/update.asp?o=8144

日本語(仮訳)

CAFCが「侵害の積極的誘引(active inducement」に必要とされる立証基準を明確化

2006年12月13日、CAFC大法廷(en banc)は、DSU Medical Corp. v. JMS Co., Lmtd.事件に判決を下しました(判決原文:http://www.fedcir.gov/opinions/04-1620.pdf)。この判決では、米国特許法271(b)に規定された「侵害の積極的誘引(”active inducement”)」を判断するうえでの「故意(mens rea)」についての判断基準が示されています。本判決においてCAFCは、”active inducement”に該当するには「単に直接侵害を構成する行為を引き起こす意図以上のものが要求され、単に直接侵害をしている者の行為を知っているだけでは不十分であり、他人の直接侵害を奨励(encourage)するような責められるべき行為(culpable conduct)が立証されることが必要である(“more than just intent to cause the acts that produce direct infringement. … [I]nducement requires evidence of culpable conduct, directed to encouraging another’s infringement, not merely that the inducer had knowledge of the direct infringer’s activities”)」と判示しました。

米国特許法271(b)には、「積極的に特許の侵害を引き起こした者は、侵害者として責任を負う(“any party who actively induces infringement of a patent shall be liable as an infringer”)」と規定されています。本判決以前、CAFCは「積極的に…引き起こす(”active induces”)」を構成する行為について二つの異なる判断基準を示していました。Hewlett Packard Co. v. Bausch & Lomb, Inc. (909 F.2d 1464 (Fec. Cir. 1990))事件では、当該行為が特許侵害に該当すると主観的に信じているか否かにかかわらず、単に直接侵害を構成する行為を引き起こすだけで十分である、と判示していました。一方、Manville Sales事件では、原告は特許侵害を引き起こす(induce)行為が行われたことだけでなく、その行為が実際に特許侵害を引き起こすとを知っていたことを立証する必要があると判示していました。(Manville Sales Corp. v. Paramount Systems, Inc., 917 F.2d 544, 554 (Fed. Cir. 1990))

本裁判では、Manville Sales事件の基準を採用して行われた地裁での陪審員説示(“jury instruction”)の適切性が争われました。

CAFC大法廷(en banc)は、地裁での陪審員説示(“jury instruction”)を支持し、Hewlett Packard事件で示された具体性の低い判断基準を否定しています。さらに、同大法廷は、被告が弁護士から非侵害の鑑定を得ていたことを指摘し、陪審員が下した非侵害の評決は根拠があるものと判断しました。具体的には、CAFCは「ITLはその製品(Platypus)が非侵害であると信じていた証拠がある。従って、侵害の意図はなく、法が要求する特定の意図(“specific intent”)を欠くとの陪審員評決は正当である(“[T]he record contains evidence that ITL did not believe its Platypus infringed. Therefore, it had no intent to infringe. Accordingly, the record supports the jury’s verdict based on the evidence showing a lack of the necessary specific intent”)」と判断しています。

本判決は特許権者、侵害訴訟の被告、潜在的な被告のそれぞれに重要な意味を持つものです。特許権者にとっては「侵害の積極的誘引(”active inducement”)」を立証する負荷が実質的に増加することになります。特許権者が潜在的な侵害者に特許の存在を認識させるため特許を通知するような場合、特許権者は、将来的に被告が特許侵害を知っていたことの証拠として使えるようそのような通知の記録を保管しておくべきでしょう。

一方、潜在的な侵害者は、弁護士から合理的な非抵触の鑑定を入手することによって「侵害の積極的誘引(”inducement infringement”)」による訴追から逃れることができるでしょう。本判決では明示されていませんが、本判決の論旨に従えば、仮に直接侵害の成立に疑いがないとしても、特許の無効を合理的に信じていた場合であれば「侵害の積極的誘引(”inducement infringement”)」による訴追から免れることができることが強く示唆されています。

また、本判決では触れられていませんが、合理的な非抵触又は特許無効の鑑定を有している被告は、地裁又は高裁が積極的に特許の非侵害又は無効を認定する前の行為についても、271(b)に基づくいかなる損害からも免除されることが示唆されています。

タウンゼント知財総合事務所/穐場 仁

米最高裁、Microsoft v. AT&T事件のヒアリングを実施

本事件は、米国特許法271(f)が争点となったCAFC判決に対する最高裁での審理であり、2/21に口頭審理(oral hearing)が実施された。

米国特許法271(f)はいわゆる間接侵害の規定で、特許製品の最終的な組み立てが米国外で行われる場合であっても、米国から部品を供給した場合に、一定条件下で侵害を認めるもの条項である。Microsoftは、米国からソフトのマスター・ディスクを海外に供給し、海外でマスター・ディスクを複製してコンピュータに組み込んでいる。CAFCでは、かかる状況においても同法の規定によりAT&Tの特許を侵害すると認定したいた。

同法271(f)に関しては、米議会で議論されている特許法改正においても議論の対象となっている。

タウンゼント知財総合事務所/穐場 仁

House Votes to Establish Dedicated Venues for Patent Cases

Townsend and Townsend and Crew/タウンゼント知財総合事務所が不定期にお届けするニュースレターです。以前「特許/知財トピックス」で紹介した「特許訴訟専門裁判官の養成へ」をフォローする内容です。

英語
http://www.townsend.com/resource/update.asp?o=8143

日本語(仮訳)

特許侵害訴訟に専門裁判所を採用する法案が下院で可決

米国下院は、特定の連邦地裁における特許訴訟の専門性を高めるパイロットプログラムを可決した。このパイロットプログラムを推進している背景の一部には特許訴訟における連邦地裁の判断の多くがCAFCにより覆されている事実があると思われる。特許訴訟について専属管轄を有するCAFCは、地裁のクレーム・コンストラクションの30%以上を覆していると言われている。このパイロットプログラムは特許法に対する専門性を高め、特許訴訟を補佐するロー・クラークを増員する予算的措置をとることを意図している。

Darrell Issa下院議員(カリフォルニア州、共和党)及びAdam Schiff下院議員(カリフォルニア州、民主党)が共同で提出した本議案(H.R. 34)では、パイロットプログラムに参加する地裁において、各判事が特許訴訟を担当したいかどうかを選択することが可能となる。新たな特許訴訟が提起された場合、通常の訴訟と同様に、かかる訴訟は判事にランダムに割り当てられる。ランダムな割り当てにより特許訴訟担当を選択した判事が担当することになった場合にはその判事が当該訴訟を担当する。しかしながら、選択しなかった判事が割り当てられた場合、かかる判事はそのまま訴訟を担当するか、他の選択した判事に案件を譲るか選択することができる。

この法案では、連邦裁判所(United State Courts)の管理部門長(Director of the Administrative Office)が特許訴訟の多い15の連邦地裁の中から少なくとも5つの連邦地裁を(少なくても3つの異なる巡回裁判区から)選択することとされている。しかしながら、パイロットプログラムに参加する地裁は少なくとも10人の判事が在籍し、少なくとも3人の判事が特許訴訟の担当を選択することが必要となる。

また、この法案では、特許訴訟を選択した判事の教育と専門性強化のため毎年500万ドルまでの予算措置を講ずることとしている。この予算は特許訴訟で重要となる技術的な知識を有するロー・クラークへの手当としても用いられる。このパイロットプログラムは議会への定期的な報告を条件として10年間行われる予定である。

タウンゼント知財総合事務所/穐場 仁

特許訴訟専門裁判官の養成へ

《IP トピックス vol.8, 2007.02.18》
米国下院は特許訴訟を扱う裁判官を専門化するためのパイロットプログラムに関する法案を可決した。同法案は前回の議会でも下院を通過していたが上院での審議未了により廃案になってい。
同法案は、特許訴訟を担当する判事を指定し当該判事の専門性を向上するための措置を講じる内容。

本法案についてはTTCクライアントアラートも掲載予定です。

タウンゼント知財総合事務所/穐場 仁

特許訴訟受任件数ランキング

《IP トピックス vol.7, 2007.02.17》
IP Law 360 によると、2006年の特許訴訟受任件数のランキング上位は以下のとおり。上位3事務所の顔ぶれは変わらず。
1. Fish & Richardson
2. Jones Day
3. Greenberg Traurig

※ IP Law 360の購読には登録が必要です(本トピックスは登録不要で閲覧できる範囲で記載しています)。

穐場 仁

USPTO、審査官増員続く

《IP マメニュース vol.6, 2007.02.07》
USPTOは審査滞貨の解消のため審査官の増員を続ける方針である。USPTOの次期5ヶ年計画では、毎年1,200名の審査官を採用するとしており、採用のための説明会も積極的に行っている。
(07年1月だけで全米12ヶ所で実施)。また、審査官の民間企業への流出をおさえるための特別手当や、ロースクールへの通学費用を支給する等、審査官の確保に向けた施策も行われている。

穐場仁